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「生理反応重力場の理論」についての試論 ~vol.6(最終回)~

「生理反応重力場の理論」についての試論 ~vol.6(最終回)~

2020.10.05

構医ジャーナル寄稿

「生理反応重力場の理論」についての試論 ~Vol.6(最終回)~

全6回にわたり連載してきた、原口誠氏による「試論」の最終回。本来、自然界に境界の存在しないことの帰結として、構造医学は広範な学際性をもつために学ぶには多大な労力を要するが、原口氏は全体像への希求をあきらめなかった。筆者自身が「試論」と冠した通り議論としての余地は残されるだろう、しかし未知のベールを一枚ずつ剥がしていくような原口氏の知的探求と努力を辿る道標として、原文のまま掲載してきたものである。前途有為な原口氏のさらなる継続研究が望まれる。


時間的整復場


アンリ・ベルクソンの時間哲学とミンコフスキー時空間(図)にみる時間概念は、我々の意識の在り方をよく表している。(同時に光を媒介してしか事物をみることができない人の観測および認識限界を示している。(図)


ベルクソンは、ミンコフスキーのように時間を等質的空間のように扱うことを批判し、時間とは内観的にのみ得られる連続する意識そのものの「持続」と説いている。一方、ミンコフスキー時空間の時間における「私」の位置(世界点)は、収束と発散の特異点であり、瞬間的に時間は止まっている。人はこの二つの相対的意識時間状態があり、瞬間的に時間が止まる程の集中を要する場面もあれば、意識散漫な場面もあり、ただありのままに意識の変化を感じる在り方もある。
動的な術行使の場では、ベルクソンの唱える持続的意識状態が大切だと考える。集中でも散漫でもなく、ただ患者の連続的態の推移的流れと自己の意識の時間的持続の流れをリンクさせ、釣り合いを感じとることだけに心身を置く時、相互関係の中に時間的同期が現れる。
「重力が自ら働きかけてくることはない」と前述したが、重力(自然)は意図しない。つまり「無為自然」の境地である。
意図とは意識することであり、意識の集中は時間を点に収束させ止めることに他ならず、動的対応を要する場面において、意識した時には機は過ぎ去っており対応は遅れる。武術の世界でそれらは「居着く」と表現され、「無明住地煩悩」、心をとめてはならないという教えもあり、我々の術も同様に、意図や過剰な集中があってはならず、全ては相手との釣り合いを持続的に感じ続けることが、結果的に力の過不足のない「連衡」を形成し、自然整復へと繋がる。
これは頭軸圧法や顎挙上法なども同じで、患者の身体自身がこちらの提供する支点を利用して自らバランスをとるのであり、小手先の技術より自分の反応を抑え、不断の意識を保つことに術の難しさと極意があることをあらためて知る。


構造医学の教えが「医療者は黒子に徹する」とするのは、ただ控えめに振る舞いなさいという観念論を述べられているのではなく、理に従えば自然とそう振舞わざるを得ないのであり、恣意的な意識を持たず、ただ重力のようにそこに在るように振る舞いなさいということだと解釈する。重力こそ全ての陰に存在する真の黒子だからである。


むすび


今回、原始の人類意識に立ち還り、素朴な視座からありのままに宇宙や人の構造を観て捉え直す試みから、全ては容器(位相空間的構造)と内容(エネルギー)の関係構造、態の推移変化としての流れと捉えなければならないことにあらためて気づいたのであるが、そのような素直な目でみると、骨盤形状にある不思議な形がみえてきた。
弓状線厚隆起帯の流れを追うと表裏反転交差して繋がっており、それはまるでメビウスの帯のようにみえる。紙の帯を輪状に繋ぎ、8の字に捻ってみるとスムーズな流れとならないが、帯を一ひねりしてメビウスの帯状に繋ぎ8の字に捻るとスムーズな流れの立体が形成できる。トポロジー的にメビウスの帯は四次元空間の構造をもつ。このメビウスの帯を二つ張り合わせると「クラインの壺」となり、4次元の不思議な空間構造となるのだが、寛骨に挟まれた骨盤中央をみるとそこには「子宮という生命を産み出す神秘的な壺」がある。手塚治虫先生も、女性の子宮をクラインの壺に例えた漫画を描かれており、同じようなイメージをもつ人がいたようである。
容器(外形)と内容(エネルギー)で捉えると、子宮とは生命を産み出すエネルギーを蓄積する容器であり、それは初潮を迎えるまでの成熟待機期間、歩行で生じる寛骨フライホイール機構により発生する運動エネルギーを蓄積し、質量と生命を創生する容器に他ならない。(E=mc2) (図)


逆さになった壺には外界と上下反転した胎児が納まり、分娩時に胎児の視点からみると進行方向に対して左回旋するが、骨盤「分界線」を越えると右回旋へ反転しながら外界へ個体として誕生する。(図)

吊性置性のトルクバランスの転換点とも考えられるが、あえて分界線で反転することや角運動量ベクトルの向き、前述した子宮の神秘性からをみると分界線とは「異空間との事象分界線」かのようであり、まさしく生命を産み出すミクロコスモスのようである。
縄文土器の壺は女性の子宮を表現したものと考えられており(壺に女性の分娩の姿が描かれたものもある)、死者を壺に埋葬したのは子宮からの再生を願ったものと考えられ、それらの壺にはメビウスの帯や勾玉、螺旋渦巻きなど自然や宇宙の本質を直観的に捉えたとしか思えない美しく不思議な文様が描かれている。自然と暮らし、自然をありのままに観ることができた彼らには、レビィ=ストロースが言ったように、現代の我々がもたない「野生の思考(知性)」があったのだろう。


我々は様々な時代や環境という「場」で関係し合って生きている。それぞれが相対的時間を生きる我々が、ある時間と空間で縁をもち、相互作用し合っている時にだけ同じ時空間を共有し合っていると考えるならば、我々の診療も全ては「場」に還元されると解釈できる。 今回は「生物反応重力場の理論」理解のために重力と形に焦点をあて理論の一端について考えたが、生体潤滑理論及び境界層理論や水力学的な問題等々、さらに膨大な理論を包括するものである。しかし、この理論は決して物理的生物反応概念だけに留まらず、全ては「場」の存在で成立し、その「場」の基底にあり、相互の関係(構造)を繋ぐものが重力であると言明した理論であるとの自己なりの理解に至ったところで試論を締めくくりたい。


謝辞


本稿のために、筆者の人体宇宙のイメージを素晴らしい絵に表現して下さった吉村ゆりさん、ありのままに観ることの大切さと太極思想哲学を伝授していただいた吉田勧持先生に心より感謝申し上げます。



参考引用文献

構造医学の原理 吉田勧持 エンタプライズ
構造医学の臨床 吉田勧持 エンタプライズ
構造医学解析I 吉田勧持 エンタプライズ
構造医学 自然治癒の鍵は重力にある! 吉田勧持 エンタプライズ
「歩行」と「脳」吉田勧持 エンタプライズ
男女対照 生体の構造とデザイン アレグザンダー・シアラス 邦訳監修 吉田勧持 
医学概論 第一部 科学について 澤瀉久敬 誠信書房
アンリ・ベルクソン 澤瀉久敬 中公文庫
意識に直接与えられたものについての試論 アンリ・ベルクソン ちくま学芸文庫
創造的進化 アンリ・ベルクソン ちくま学芸文庫
物質と記憶 アンリ・ベルクソン 講談社学術文庫
思考と動き アンリ・ベルクソン 平凡社ライブラリー
流れとかたち エイドリアン・ベジャン&J・ペダー・ゼイン 紀伊國屋書店
対称性 レオン・レーダーマン 白揚社
カオスの自然学 テオドール・シュベング 工作舎
時間と空間 エルンスト・マッハ 法政大学出版局
哲学と宗教全史 出口治明 ダイヤモンド社
生物のかたち ダーシー・トムソン UP選書
野生の思考 クロード・レビィ=ストロース みすず書房
構造主義 ジャン・ピアジェ 白水社
構造主義生物学 柴谷篤弘 東京大学出版会
構造主義方法論文入門 高田明典 夏目書房
構造主義進化論入門 池田清彦 講談社
エピジェネティックス 仲野徹 岩波新書
宇宙船地球号 バックミンスター・フラー ちくま学芸文庫
かたち〜自然が創り出す美しいパターン F・ボール 早川書房
図解 縄文大爆発 大谷幸市 parade books
第21回日本構造医学会論文集「要素比較人類学的考察」原口誠
第23回日本構造医学会論文集「置性系、吊性系の平衡メカニズムの考察」原口誠
「絵画協力」タイトル「ミクロコスモス」吉村ゆり


原口 誠 (柔道整復師)

高校時代に全国屈指の強豪校で柔道に励む中、怪我が絶えず通院した整骨院での経験を機に柔道整復師を志す。神奈川県にて診療に励む傍ら意欲的に研究や後進育成に取り組んでおり、第16回、21回、23回、24回に引き続き第25回学術会議においても演題発表の意向を示している。