日本構造学会 第23回大阪学術会議

日本構造医学会は、11月23日、通算23回目となる日本構造医学会大阪学術会議を大阪大学中之島センターにて開催した。
すっきりとした秋空の下、一昨年の大阪学術会議を20名以上上回る約150名が詰めかけた。
学会長は、松村圭一郎氏。公益社団法人熊本県柔道整復師会会長を務める同氏は、開会式において、「構造医学は心・技・体・知の基礎となる学問であり、今後益々の発展を祈念する」との学会長挨拶を述べた。
続いて、近年最多となる8名の演題発表が行われ、それぞれの演題について座長カンファレンスでは、より掘り下げた議論が行われた。

Person.01

「交通事故外傷」症例報告

徳島県 柔道整復師

後藤 雅文

発表冒頭ではまず、重度の交通事故外傷を受傷後、残存症状に苦しみ来院された患者に対面したときの、状態の酷さに対する恐れと、11軒も断られてきた患者に手を差し伸べたい臨床家としての葛藤が率直に明かされた。治療の覚悟を決め、生理潤滑を再構築し、生理的回復を目指した処置の記録が、整復処置・日常生活等指導・各運動療法に分けてスライドを交え発表された。

参加者から苦労した点を尋ねられると後藤氏は「通院終了までに左の股関節の症状を除去しきれなかったことが心残りだが、患者様からはむしろここまで治してくれたことに対する感謝が述べられ、臨床家として逆に救われた思いだ」と答えた。

また、発表を聞いた吉田理事長は顔面浮腫が事故後かなり経過しても残っていた点に触れ「神経核(三叉神経核)の障害が表出している可能性があり、急展開・悪化するケースがあるので、冷却を絶対に怠らない事」と注意喚起していた。

Person.02

非圧縮性流体封入器を使用した頸部の観察と整復

大阪府 柔道整復師

笠井 浩一

笠井氏は、臨床上難しく感じる頚胸移行部の状態判断と整復につなげるため、自ら開発した非圧縮性流体封入器を用いて、各種運動時の内的挙動を観察した。そこには異常に応じた特有の動きがあり、異常側の判定、頚胸移行部鈎状突起支点性レバーアーム(骸核性)と頚胸移行部第1肋骨支点性レバーアーム(浮上型)の鑑別診断を行う補助的情報が得られると考えられた。

また、異常運動の抑止と自助運動の介助が、本開発品によって容易に行えたと報告していた。

吉田理事長による総括では、「患者の状況を評価することは重要だが、体位などで評価は変わりうる。そういう難しさがある。その困難に対応した成長例である」とエールを受けていた。

Person.03

発達障害に寄り添うために
(2)発達障害を持つ患者の歯科臨床

東京都 歯科医師

山田 博

刺激の多い環境や行為に、いかに患者を適応させ好ましい行動をとれるように導くか。歯科医・山田博氏はその方法として行動変容技法を用い、習慣形成を目指してきた。自閉症小児との信頼の前提として、まず保護者との関係を築くこと、そして場面ごとの行動観察を経て、環境適応力や理解力を判定すると共に、施術者の心構えが重要だと述べた。

また、治療時に3名の衛生士をつけて安全性・迅速性・低ストレス環境形成を行うなど具体的な方策が明かされた。一つの行動変容が構造全体に波及し生活全般の改善に至る点で、テンセグリティ構造との相同性に言及していた。質疑応答で参加者から、「患者だけでなくスタッフにも発達障害を抱える者がおり苦慮している」と相談されると、山田氏は「具体的アドバイスと細かいステップで対応するほかない」と答えていた。

また、アスペルガーと自閉症患者への対応方法を問われると、「言語能力に優れるアスペルガーには言葉ではなく意志を伝えている。自閉症患者が“言語理解力が低い”というのは誤っている印象があり、逆に言葉で伝えるという、一般とは逆の対応をとっている」と答えていた。

Person.04

PVL(脳室周囲白質軟化症)一患者への柔道整復師としての取り組みについて
ー非圧縮性流体封入器などを用いた関節整復の可能性ー

大阪府 柔道整復師

三雲 大輔

三雲氏のもとに来院したPVLの女児(初検時小4)は、専門病院にてボバース法によるリハビリを継続しており、下肢対麻痺、体幹支持困難、左上肢の機能低下等が認められ、ここ数年回復の兆候がみられず、家族の不安感や患者のリハビリに対する意欲低下がみられた。

三雲氏はPVLという大きな病名への先入観を捨て、運動機能の不全に占める脳性麻痺以外の可能性を排除せず、成長上の(正しい潤滑圧が加わっていないことによる)問題が残されており関節まわりの機能回復の余地があると考え、改善を模索した。具体的には徒手・非圧縮性流体封入器による整復、構造医学各療具による姿勢保持訓練・運動療法・加圧トレーニング・アイシング・四つ這い姿位支持訓練を行った。自立座位すら取れなかった患者が、1年半経過後、サポート状態でかなり長く立位が保てる(数秒であればサポートなし)ようになり、座位姿勢も体幹支持が安定し、手すりを持って立ち上がり、クラッチなしで歩行でき、学校の授業を通常の椅子で受けられるようになった。

また、運動会での団体競技、組体操に初めて参加でき、QOL上大きな改善があった。発表の最後、女児が介助なしに立ち上がる様が会場スクリーンに映し出されると、参加者らは真剣な表情で見入っていた。

Person.05

置性系、吊性系の平衡機構リンケージと代償メカニズムの考察(経時的損壊進行パターン原理をよむ)

神奈川県 柔道整復師

原口 誠

原口氏は、一昨年の大阪学術会議で発表した「要素比較人類学的考察」の着想から、要素の全体統合へ向けて検討をすすめ、頭蓋骨と骨盤下肢帯の相関性や置性系としての口腔円錐等具体例に触れつつ、いくつかの複合型損壊パターンメカニズムの考察を行った。B1、B2、顎関節頸椎協調支点、胸腰移行部における構造類似性は2つのやじろべえが縦に連なる2連やじろべえリンケージ機構であると見出したうえで、例えば非荷重と逆側股関節障害の複合ケースにおいて、股関節障害が対側上肢の運動を制限することでB2が逆側へ変化しAt、C3、Axが続いて逆側へ変化しバランスするが、そのB2レバーアームが逆側へ変化する仕組みを、力学的代償性を踏まえて具体的に解説した。

質疑応答では一昨年に続く継続研究の動機を尋ねられると、原口氏は、「昔と比べ構造医学の処置療具が充実し、必ずしも精密な診断ができなくとも安全・効果的に処置できる環境が整備されつつある中で、原点に立ち返り損壊パターン図を読み解く必要性を感じた」と述べていた。吉田理事長は「原口君は比較解剖から色んな目線や気づきを提供し、収束点が『個』に辿り着くことを示唆した発表だ」と総括した。

Person.06

施設内における心肺蘇生体験

富山県 柔道整復師

牛田 恭司

牛田氏は自施設内で意識喪失した利用者に対し構造医学的心肺蘇生を行った。現行ガイドラインの心肺蘇生法では胸郭骨折をはじめ合併症が少なくないが、構造医学による蘇生では、わずか数回の押圧で蘇生に至ったことを報告した。

今回の経験を踏まえ、現行ガイドラインへの問題解決案が提示された。参加者から心停止に遭遇しパニックにならなかったか?と尋ねられると、「脳裏をよぎったのは“最初の押圧時にゆっくり心臓内血を出し切ること”であり、その通り押圧するとわずか1回で血液の動きが実感できたおかげで冷静になれた」と答えていた。また、会場の参加者に向けて「日頃常に患者さんに触れている臨床家の皆さんなら、同様に血液の動きを察知できると思う」と述べていた。

Person.07

顎関節頸椎協調支点で、開口量から捉えた顎関節の形状

北海道 歯科医師

大倉 雅顕

30数年前、医学書では開口は下顎だけの運動として扱われ、顎関節も下顎のみの動きとして扱われていたが、大倉氏は臨床経験から開口には下顎固有の開口量があり、一定以上の開口では頭部の伸展によると感じていた。

開口運動における頭部の環椎上での動きを知るため、開口量による顎関節の動態を顎関節頸椎協調支点で調べた結果、2横指開口量まで顎関節では下顎頭が下顎窩の前方、結節の後壁を動き、環椎上での頭部の伸展は認められず、それ以上の開口で頭部の伸展とともに下顎頭が関節結節の頂点を越えて前壁へと移動したことを認めた。吉田理事長は「本発表において矢状面での確認をなされたが、水平方向・回転方向でも当然ある。これは脳の転位に波及する問題であり、それは『頭痛』の要因でもある」と総括した。

Person.08

側弯症に対してリダクター処置を行った一症例報告

千葉県 柔道整復師

加藤 弘大

加藤氏は原因不明の思春期型側弯症患者(女児・初診時11歳)に対し脊柱非観血外科処置台にてリダクター処置を行い良好な経過をみている。具体的加療・指導は、コルセットを外し胸郭拡張抑止帯の着用指導、毎日40分の歩行指導、氷冷、週に1~2回のリダクター処置(全柱型・細密型・環椎後頭関節細密型)、ミルキングアクション、頭軸圧法等である。

経過について加藤氏は、Cobb角の変化や患者本人の背中・首の痛みの消失がみられ、友人との遊びや受診時のコミュニケーションが活発になるなど一定程度の改善があると説明した。また、発表後の経過は定期的に一般財団法人構医研究機構公式サイト上にて行うと述べた。

理事長総括では吉田理事長が会場に向けて「側弯症の評価一つとっても大変なことだ。例えば背中の弾性を測るにはどうするか?」と問いかけた上で「力学的には2点固定が必要だ。加藤氏のリダクター処置は、弾性評価できる道具立てが完成した時代に生まれた。その意味を立ち返って考えるとよいかもしれない」と述べた。

座長カンファレンス

2回目の試みとなる座長カンファレンスは、ざっくばらんな雰囲気の中、活発な質疑・議論がなされた。学会旗が次回大会長の八戸氏に手渡されると会場は拍手に包まれ、盛会のうちに第23回学術会議が閉幕した。次回・第24回日本構造医学会は、栄誉の殿堂である東京・学士会館にて2019年秋に開催を予定している。

【学会長 兼 実行委員長】

松村 圭一郎

【実行委員】

落合 弘志加藤 和円河内野 良蔵工藤 達哉高坂 忠志杉本 昌隆藤澤 創宮埼 大介

【座長委員】

鬼丸 聡柴田 宗孝鈴木 善雄八戸 正巳林田 一志森 正仁