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「生理反応重力場の理論」についての試論 ~Vol.5~

「生理反応重力場の理論」についての試論 ~Vol.5~

2020.09.29

構医ジャーナル寄稿

「生理反応重力場の理論」についての試論 ~Vol.5~


生物形態が表現するもの


2016年日本構造医学会学術会議発表の拙稿「要素比較人類学的考察」において、形態や関係的構造類似性から部分と全身の繋がりを考えたが、中でも下顎骨と肋骨には成長から老化の過程における形態変化や病理形態像に高い相関性が見られることを例に上げた。ともに成長期は円錐曲線における楕円形を示し、成長直立過程で骨体部は放物線、関節頭部から頚部にかけては強く捻れる双曲線を示し、老化過程では巻いたゼンマイが解けるように緩み楕円形へと退行する姿はエネルギーの蓄積過程と喪失を表現している。(図)


学術会議当日の発表では、これらの曲率変化を天体運動軌跡に例えて説明したが、ここで改めて述べると、太陽系重心周りを公転軌道で周回する惑星は楕円軌道に収束するが、より高い運動エネルギーを持った系外からの非周期彗星は太陽の重力を振り切って双曲線軌道を描き飛び去って行くことから、楕円→放物線→双曲線の順に加速度やエネルギーを多く内包するというイメージを類推するだけでも、臨床においてかなりの有用な情報を得ることができる。
また、ここから全ての生物形状は、宇宙の時空間構造である重力という容器の幾何学形状である円錐との加速度的関わりから、円錐接線の傾きが変化し、それが媒介変数表示のように様々な円錐曲線へと質量転換し、形へと表現されていると考えられる。


整復構造解析および人体才差運動階層構造について


構造(関係性)を明らかにすることは、ただ要素分けして何で出来ているかを明らかにするためではなく、最終的な制御を目的とするのであり、関係を記述する要素の中には少なくとも一つの「操作可能な変数(人為的操作により変化させることが可能な要素)」と制御対象変数が含まれていなければならない。
つまり整復法を考えることはシステム制御のパラメータを何に決めるか考えるようなものだと考えられる。
(パラメータ=媒介変数。ある系の挙動結果に影響を与える、または制御する「外部から与えられる変動要素」)


制御とは安全性を担保する意味で、使用方法に先立つものであり、制御の仕方もわからぬまま簡単に使用に踏み切ると重大な問題を引き起こすことは原発問題で経験済みであり、それは種々の整復技術も同じである。
「こと」と「もの」の関係においては一般に、「こと」が深層構造、「もの」が表層構造の階層構造を成すことがほとんどである。構造制御において深層構造は直接操作することはできないため、表層構造を操作して深層構造を制御するという方法がとられるが、これは整復の構造を考える上でも重要な考え方である。
例をあげれば経済における景気とは深層構造であり、それ自体を直接操作することはできないため、消費という表層構造を操作することで景気を上げるような政策が図られたりする。医学分野においては、フロイトの精神分析が有名であり、無意識を深層構造、身体や行動に顕在化する症状や言動を表層構造と捉え、会話やエピソード記憶の想起による顕在意識へのアプローチにより無意識に潜在、抑圧された問題(トラウマ、リビドー等)をあぶり出そうという試みがなされている。ここで注意すべきは「こと」に「こと」で対応できないということである。消費とは金や物の実体的な動きを伴うし、精神へのアプローチに会話等のコミュニケーションや行動療法の有効性が見直されるのも、身体を動かすという実体行為を媒介している。
整復にも同じルールが適用されると考えられ、物質的(表層)操作は深層構造の機能を制御するための手段であり、物質操作(解剖学的位置の整復)そのものが目的ではないということである。


前章の形態と時間の関係構造から、時空間の深層構造とは時間(こと)であり、三次元空間位xyz(もの)は表層構造を成す。このような構造を整復する際に外部から我々が操作介入可能なパラメータは表出される運動構造体相互間の相対加速度であり、これを介して深層構造である時間を制御する。時間の制御とは、時空間における構成要素間の時差、位相周期を同期させることに他ならない。ここでハイクォリティハーネスの整復モデルで考えてみると、患者の運動とそれを制御する我々の関係構造は「重力加速度⇨慣性抵抗」=「患者運動⇨術者制御」の関係が成立していることがわかる。
つまり我々は慣性抵抗、重力そのもののように振舞わなければならないことになる。水に喩えれば、我々は患者の動きに応じて生ずる流れ抵抗のように「自然に」振る舞われねばならず、その相互関係において力(抵抗)の過不足があってはならない。 それを考慮すると後述する才差転子転子の理論同様、大腿骨頭や大転子に指一本軽く当てるくらいの力で十分な制御が可能である。 術者は患者自身が自己修正するための支点提供と、運動枠を規定するだけに留めることが大切であり、こちらが操作する意識を働かせると内力の釣り合いを壊してしまう。


また、ハイクオリティ・ハーネス(以下、ハーネスとする)の開脚抵抗にバネを利用している意味について考える必要がある。フックの法則から、バネの弾性特性によりエネルギー保存則が成立すること、またバネの「両端から均等に力を加えなければ伸びない性質」が利用されている意味を考えれば、原理的に使用方は演繹される。
よく見る光景として、ハーネス運動時の患者開脚差を指摘し、恣意的に補正する処置が見られるが、原理的に適切ではない。それは自ら患者の立場で受けてみればわかることであり、恣意的補正をされたり、強く加圧されたとき、それは内系のつり合いを欠いたいびつな違和感として体感される。
ハーネスはWBに収束する三軸方向からの合力で構造剛性を高め、さらに両脚間をバネで繋ぐことで、ハーネスと患者が一つの運動系として内力の釣り合いを達成しており、エネルギー保存則が成立しているので外力なしの内力のみで整復できる仕組みを内包している。さらにエネルギー保存則が成立するということは、E=mc^2から内力の保存エネルギーは質量転化されるので、機能的整復のみならず骨量や筋肉への重力質量に転換される。
「両端へ均等に力を加えなければバネは伸びない」という原理から演繹すれば、開脚における運動量や相対加速度差は、バネ特性を介して荷重量の差に転換され、WB三軸のエネルギー総量の釣り合いをとるので、力学的対称性は保たれるように設計されており、あらゆる平衡要素と重力要素を包括する構造医学の整復概念を具現化した整復器具であると考える。(バネを固定支点ではなく可動支点にしているのも、相対的エネルギー量のつり合いをより精緻にバランスするためと考える。)
このような構造特性を理解せずに、術者が恣意的な力で介入することは、ハーネスと患者の内系の釣り合いで達せられる自然整復を阻害していることに他ならない。
見た目の左右差や自己の診断だけに囚われず、患者自身が違和感なく自然に「一定のリズム(時間的同期現象の条件)」で行うことが基本であり、我々の仕事は釣り合うための支点を提供するだけである。慣性抵抗は重力加速度運動との釣り合いで働くのであり慣性抵抗(重力)自らが働きかけてくることはない。


内系の力のみでも整復が完結するハーネスに対し、才差転子は患者自身での整復は不可能である。この違いを知ることは、「系」の内外の力学関係を理解する上で重要だと考える。
才差運動は自転する運動系内の自転軸角運動量による回転軸保存性と系外からのジャイロモーメントとの動的な釣り合い(ジャイロ効果)で起こる現象であることから、患者自身が自分に使用しても効果は期待できず、むしろ系内にひずみを還流保存してしまうことが考えられるため、系外からの速度的干渉が必須となる。
ジャイロモーメントの式は、
Ω×L=T (Ωは振れ回りの回転速度、Lは自転軸角運動量、Tがジャイロモーメント)の関係となっており、直交3軸のモーメントの釣り合いを示す。(図14)ジャイロモーメントはコリオリ力(転向力)を角運動量の旋回に拡張したものとされることから、自転軸に作用する転向力に対し、動的平衡への応答反応が才差運動という関係にある。この関係において、釣り合いを乱す要素(自転角加速度の変化や軸偏心、異常な系外力の干渉等)が起こると、才差運動の触れ回り周期に異常をきたすことになり、その不整運動が関節に影響すれば円滑な周期運動が阻害され、摩耗性障害や応力対応のための変形などの様々な問題を惹起することが考えられる。
才差転子とは回転対称体である真球を異常運動系へ多角的に接触干渉させることで位相周期を整復するものと考えられる。 (使用者レベルの理解としては、分光学において、偏光板と位相差板の回転に応じた偏光状態はポアンカレ球の点に表現されることから、回転球面の干渉が位相差を整復する働きがあると理解している。)
重度の障害に陥るとは、「個体系内での内力の釣り合いを欠き、自己内部での修復が困難となった状態」であり、才差転子を媒介して系外から干渉する我々の存在は、ジャイロモーメント制御を介して正常な自転軸と才差運動軸へと補正する立場なので、重力機能の正常化、つまり「生理重力」そのものの役目をここでも演じることになる。


そもそもなぜ才差整復が有効なのか、それは人体もミクロコスモスの階層構造となっており、小さな系は一つ上の階層に包含される宇宙の構造と同じであるからだ。
構造医学解析Ⅰにおいて、WB真軸、恥骨クランク、股関節支点の構造関係を天体力学に用いられる「ケプラーの面積速度一定の法則」により、それは示されている。(図)

この運動系を太陽系に喩えれば、股関節支点が太陽、WB真軸と恥骨クランクが周回軌道惑星の関係となり、重心周りに面積速度一定の法則に基づく軌道関係が成立している。
この法則からハーネスの左右開脚運動量傾向からWB障害傾向診断も可能と考えられる。構造医学の器具療具類は、治療はもとより診断に使え「診断即整復」、つまり診断と治療が同時に達成されるように考えられている。


ここで注意すべきは股関節「変数」支点となっていることであり、これは太陽が周回軌道惑星を束縛しているのではなく、逆に周回軌道惑星が太陽を束縛している構造であり、これを先程の具体構造に当てはめると、WB真軸と恥骨クランク機構の位相関係に股関節は束縛され、股関節支点を代償性に変化させて対応するメカニズムとなっている。
太陽系の重心点は太陽と惑星を結ぶ線分を、それらの質量の逆比に内分する点に存在し、太陽自体が真の重心ではないと考えられ、よって太陽も周辺惑星や系外からの力を受け才差運動しながら僅かに動いているのであり、このことからも、巨大な質量(物質)が重力場をつくりだすというよりは先に容器である時空間構造のひずみ(重力渦)が先立ち、そこに物質が集積し、系の中心への収束力と系外からの慣性抵抗が全ての公転軌道で釣り合っていると考えるべきではないか。太陽があまりに巨体且つ系の中心近傍に位置し、ほとんど動かないように見えるため、それを不動中心に考えてしまうが、太陽も系の重心周りをほとんどわからない程度に公転していると考えれば重力の本質理解ができるのではないだろうか。
これは顎関節の運動解析が、その圧倒的な質量比から頭蓋を不動と見做し、下顎骨のみが運動していると捉えてしまう誤謬と全く同じ問題構造であり、厳密には全ての運動は「相対運動論」で語られるべきはずである。(図)

そもそも中心(重心)という概念は固有に自性せず、周辺との関係構造に拘束、規定されるものであることは前で触れた「無用之用」、車輪の中心は周辺枠である輪の構造がなければ成立しないことがわかる。


以上の解析から、才差転子で外部から制御操作可能な変数(パラメータ)は股関節支点の運動加速度であると思われ、その制御によりWB真軸と恥骨クランクの位相を速度的に同期させ系内の調和を図りながら三者の関係が相互に整復されるものと考える。股関節に才差転子を当てる時、我々は股関節だけに意識を置くのではなく、運動系全体を俯瞰しなければならない。
この系は膝関節における骨軸重心と膝蓋骨が成す系を包含し、また左右それらの系は、上体荷重と左右からの抗力が120度でぶつかる個体全身の重心位、即ち骨盤環構造の重心周りに周回するより大きな系に包含され、系の間はすりこぎ様の才差運動をしている。
この階層構造はまるで膝(骨軸が地球で膝蓋骨が月)、片側WBユニット(太陽系)、骨盤環WB構造(銀河系)の宇宙階層構造そのもののように筆者にはみえる。そして人体は地球に、地球は太陽系に、太陽系は銀河系に…、連綿と宇宙へ階層的に連なっている姿が想起される。そのような筆者のイメージを芸術で表現していただいた。

(絵画タイトル「ミクロコスモス」作者 吉村ゆり)





つづきは後日掲載します。



参考引用文献

構造医学の原理 吉田勧持 エンタプライズ
構造医学の臨床 吉田勧持 エンタプライズ
構造医学解析I 吉田勧持 エンタプライズ
構造医学 自然治癒の鍵は重力にある! 吉田勧持 エンタプライズ
「歩行」と「脳」吉田勧持 エンタプライズ
男女対照 生体の構造とデザイン アレグザンダー・シアラス 邦訳監修 吉田勧持 
医学概論 第一部 科学について 澤瀉久敬 誠信書房
アンリ・ベルクソン 澤瀉久敬 中公文庫
意識に直接与えられたものについての試論 アンリ・ベルクソン ちくま学芸文庫
創造的進化 アンリ・ベルクソン ちくま学芸文庫
物質と記憶 アンリ・ベルクソン 講談社学術文庫
思考と動き アンリ・ベルクソン 平凡社ライブラリー
流れとかたち エイドリアン・ベジャン&J・ペダー・ゼイン 紀伊國屋書店
対称性 レオン・レーダーマン 白揚社
カオスの自然学 テオドール・シュベング 工作舎
時間と空間 エルンスト・マッハ 法政大学出版局
哲学と宗教全史 出口治明 ダイヤモンド社
生物のかたち ダーシー・トムソン UP選書
野生の思考 クロード・レビィ=ストロース みすず書房
構造主義 ジャン・ピアジェ 白水社
構造主義生物学 柴谷篤弘 東京大学出版会
構造主義方法論文入門 高田明典 夏目書房
構造主義進化論入門 池田清彦 講談社
エピジェネティックス 仲野徹 岩波新書
宇宙船地球号 バックミンスター・フラー ちくま学芸文庫
かたち〜自然が創り出す美しいパターン F・ボール 早川書房
図解 縄文大爆発 大谷幸市 parade books
第21回日本構造医学会論文集「要素比較人類学的考察」原口誠
第23回日本構造医学会論文集「置性系、吊性系の平衡メカニズムの考察」原口誠
「絵画協力」タイトル「ミクロコスモス」吉村ゆり


原口 誠 (柔道整復師)

高校時代に全国屈指の強豪校で柔道に励む中、怪我が絶えず通院した整骨院での経験を機に柔道整復師を志す。神奈川県にて診療に励む傍ら意欲的に研究や後進育成に取り組んでおり、第16回、21回、23回、24回に引き続き第25回学術会議においても演題発表の意向を示している。