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「生理反応重力場の理論」についての試論 ~Vol.4~

「生理反応重力場の理論」についての試論 ~Vol.4~

2020.09.22

構医ジャーナル寄稿

「生理反応重力場の理論」についての試論 ~Vol.4~


形の生成場


次に形の生成という重力が強く関わる形態学的側面について考えてみる。構造医学門下の先生方なら、構造医学解析Iにおいて生物の形が重力の幾何学的である円錐断面曲線から全て表現されることは周知のことであるが、具体的にそれが何を意味するのか、どのように臨床に還元されるのか、学び始めた当初はさっぱりわからなかった。
そこで調べてみると、同様の視点から生物形態を捉えようとする試みには歴史があることがわかった。
もともとは数と形は個別的研究対象と扱われていたが、デカルトの関数を座標上で幾何的に表現するという発想の転換から代数幾何学が生まれて次第に洗練され、幾何学的性質を数理的に解明する現代の解析幾何学体系が生まれたとされる。その解析幾何学的手法を生物形態解析へ応用した研究に、古くはダーシー・トムソンの研究があり、生物形態を二次元座標平面上で座標変換して比較することにより、形態の異なる生物間でも座標上で縮尺変換すれば共通の構造を見いだせることを非常にわかりやすく表現している。(図)

この座標シートを伸縮自在の時空間シートと見做せば、形態変化(病理的変形含む)とは時空間の構造変化そのものであるということが直感しやすい。


さらにもう少し高度に立体解析幾何学に発展したものに、構造主義生物進化論がある。これは二派存在し、ソシュールの言語論的構造の視座から生物進化を考える柴谷篤弘、池田清彦らのものと、形態生成場の視座から考えるブライアン・グドウィンらの学派が存在する。
グドウィンらの説を以下に記す。



“「生物のかたちは「分子」からでは見えてこない。生物の「かたち」を支配しているものは、物理学的・幾何学的な形態形成場であり、それは生物であるか無生物であるかを問わず、関係性として普遍的な「ジェネリックな(generic)空間の、生成的な(generative)性質である」。例えば、二次曲線の円、楕円、双曲線、放物線などが、三次元空間における円錐の二次元切断面に現れる曲線の変換群だとして理解できるのと同様に、生物の「かたち」というものも、統一的な「場」の変換として理解できる。「かたち」が生成する場における媒介変数が、生物ごとに変化しているのであって、「遺伝」というのは、その変数を安定化するものにすぎない。つまり、「かたち」のもとは空間に内在し、場の法則で変換されるものであり、遺伝子や分子に原因があるのではない。個体発生も系統発生も、このような空間のゆるぎない(robust) 「かたち」生成能にもとづいており、それが動的に分岐している階層性として理解できる。)”


筆者も基本的に同意見であるが、遺伝や進化という情報伝達系の構造を考えるなら、ソシュール学派と相補的に研究すればより進展するように思う。DNAというコード(情報を表現する記号、符号の体系)で伝達し、メッセンジャーRNAを介してタンパクへ「翻訳」されるという構造は、言語体系そのものだからである。例えばヒトゲノムの97%はゲノム機能に特定の意味を持たない「ジャンクDNA」と軽んじてこられたが、最近は重要性が見直されつつある。意味を持つ領域がたった3%でそれ以外のほぼ全てと対立する構造は、「言語の恣意性の構造」と同じである。例えば「ヒト」という言葉とそれが意味指定する内容は自性的、アプリオリに存在するのではなく、世界の全てからヒトという概念を恣意的に切り分け分類することにより成立するのであり、言い換えると「世界はヒトとそれ以外で出来ている」「世界はイヌとそれ以外から出来ている」というような差異の対立構造で言葉(記号体系)の表象世界は出来ており、ヒトゲノムの97%が意味を持たないのは、むしろ全体の97%の意味の持たない領域が、ヒトをヒト足らしめていると言語学構造主義的には考えられる。


ここで宇宙とゲノム構造の驚くべき相関性に気づいた。宇宙の全質量の約96〜97%は「ダークマター及びダークエネルギー」とされ、物質として観測できるものはたった3〜4%しか存在しないという事実である。これはジャンクDNAの解釈と全く同じ構造であり、「物質という固有の性質は、それ自体が自性的に存在しているのではなく、97%のそれ以外との対立構造として相依性にのみ存在できる」という構造となっているわけである。(図)

この事実と構造から考えれば、重力および質量の本質が物質的なものでないという論理はさらに補強されると考えられる。

ダークマター、ダークエネルギーという概念は、「銀河の回転曲線問題」、つまり観測される銀河の回転速度と構成物質質量の釣り合いがとれず、ダークマターという見えない物質質量を仮定しないと銀河は遠心力で離散してしまうという問題から導入されたが、この計算もニュートンの万有引力と遠心力の斥力的釣り合いから計算されていることから問題が複雑になっているようにも思える。そもそも前述した構造論的解釈からは、全てを物質に求めることが本質的誤りと思われ、宇宙の全てが物質なら物質という定義は存在しないに等しいことになる。禅問答のようだが、物質という概念は非物質としての事的関係、わかりやすくいえば、物質と物質の間に何もない空間が存在するから、物質は物質として存在し、相互作用(関係構造)は生じるのであり、物質的なものだけでできているなら物質という概念も相互作用も生じないことは自明ではないかと思われる。これは大昔に老子も「無用之用」として説いている。(車輪の軸穴、器、建物などは何もない空間があってこそ用を成す、有は無の存在と表裏一体の関係という意)


いずれにしても最新の知見では、環境や経験、記憶のような遺伝子外的要因によりDNA塩基配列変化を伴わず、安定的に世代を超えて受け継がれる性質があることが解明されており(エピジェネティックス)、セントラルドグマだけに固執する進化学説に意を唱える両者の主張に理があることは確かである。 また、引用文中で重要なキーワードとして「媒介変数」という言葉があげられているがそれが何かということが重要である。 それがわかりやすい例として、パラメトリック方程式(関数の媒介変数表示)があり、「時間を媒介変数として」位置、速度、その他の運動体に関する情報を曲線などの形へ表現するものである。(図)

つまり形とは時間的関数の写像として表現されることになる。


つづきは後日掲載します。



参考引用文献

構造医学の原理 吉田勧持 エンタプライズ
構造医学の臨床 吉田勧持 エンタプライズ
構造医学解析I 吉田勧持 エンタプライズ
構造医学 自然治癒の鍵は重力にある! 吉田勧持 エンタプライズ
「歩行」と「脳」吉田勧持 エンタプライズ
男女対照 生体の構造とデザイン アレグザンダー・シアラス 邦訳監修 吉田勧持 
医学概論 第一部 科学について 澤瀉久敬 誠信書房
アンリ・ベルクソン 澤瀉久敬 中公文庫
意識に直接与えられたものについての試論 アンリ・ベルクソン ちくま学芸文庫
創造的進化 アンリ・ベルクソン ちくま学芸文庫
物質と記憶 アンリ・ベルクソン 講談社学術文庫
思考と動き アンリ・ベルクソン 平凡社ライブラリー
流れとかたち エイドリアン・ベジャン&J・ペダー・ゼイン 紀伊國屋書店
対称性 レオン・レーダーマン 白揚社
カオスの自然学 テオドール・シュベング 工作舎
時間と空間 エルンスト・マッハ 法政大学出版局
哲学と宗教全史 出口治明 ダイヤモンド社
生物のかたち ダーシー・トムソン UP選書
野生の思考 クロード・レビィ=ストロース みすず書房
構造主義 ジャン・ピアジェ 白水社
構造主義生物学 柴谷篤弘 東京大学出版会
構造主義方法論文入門 高田明典 夏目書房
構造主義進化論入門 池田清彦 講談社
エピジェネティックス 仲野徹 岩波新書
宇宙船地球号 バックミンスター・フラー ちくま学芸文庫
かたち〜自然が創り出す美しいパターン F・ボール 早川書房
図解 縄文大爆発 大谷幸市 parade books
第21回日本構造医学会論文集「要素比較人類学的考察」原口誠
第23回日本構造医学会論文集「置性系、吊性系の平衡メカニズムの考察」原口誠
「絵画協力」タイトル「ミクロコスモス」吉村ゆり


原口 誠 (柔道整復師)

高校時代に全国屈指の強豪校で柔道に励む中、怪我が絶えず通院した整骨院での経験を機に柔道整復師を志す。神奈川県にて診療に励む傍ら意欲的に研究や後進育成に取り組んでおり、第16回、21回、23回、24回に引き続き第25回学術会議においても演題発表の意向を示している。