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日常の臨床で気が付いたこと ―顎の吊性系、置性系―
2020.03.30
この論文では下顎の重錘機能に関する著者の考察が行われている。
そもそも下顎の重錘機能は構造医学においてヒトの直立二足歩行を可能たらしめる平衡システムとしてヒーリングタンク・バランサー機構、寛骨フライホイール機構、恥骨クランク機構、以上から成り立つ二足ジャイロ機構、ウェイト・ベアリング機構、脊柱上の四つの機構的平衡器と並び詳説されている。※1
前半ではヒトの顎の重錘構造について、四足獣のように上体を前方に傾けても頭部自体の重錘としての働きは少ないが、下顎が前後左右に重錘として働く構造を作り上げたと著者は解釈している。
さらにヒトが普段取っている顎位は顎重錘として機能しているため、上下の歯牙が2、3mm離れている。一般に、歯牙接触の時間は食事を除けば僅かと言われているが、実際は真剣な考え事や細かい作業を行っているときも歯牙は接触している。この時には重錘としての機能は邪魔になるため下顎の重錘機能に切り替えていると考察している。さらにこの歯牙の接触ポイントは非常に重要な場所であるため歯科治療では十分な審査の上治療を行わなければ、場合によっては医原性疾患を発症させると結んでいる。
後半では著者自身の下顎骨左関節突起を骨折した体験について報告が為されている。
受傷後3日目以降では開口時および仰臥位での就眠の際に、枕に頭がつくまではかなり疼痛があるが、頭をつければ痛みはなくなると述べている。さらに受傷後4、5日間は起床後30分ほどまでは歯牙全体が接触する咬みあわせができ、以降は左の奥しか接触しなくなった。さらに9日目以降は起床時から左の奥しか歯牙の接触が出来なくなり、右側への偏移が確定した。
その後、X線撮影で左関節突起の骨折を確認し、また顆頭の短縮および前方への移動が認められた。
これについて著者は、睡眠中の下顎は重錘として機能していないためなのか、起床直後は受傷以前のように歯牙全体が接触するような咬みあわせが出来たが、動き出すことで重錘機能が働きだしたため、支えを失った障害側が持ち上げられ、同側の最後臼歯の早期接触を発生させた。その結果、下顎は右に偏移させられるがその位置で重錘としての機能を正常に作用させたと考察している。
また、同様の骨折でほぼ同期間が経過している症例も参考として記載されている。顆頭部が癒着している参考症例に対して、著者の例では受傷後2か月後の頚椎の整復で咬みあわせの変化を自覚、1年4か月後には開閉のときに顆頭の動きが確認され、下顎の正中は受傷前の位置へ、顆頭の閉口位の位置が後方に戻りつつあったと報告されている。
顎の構造とその重錘機能だけでなく頚椎との関連性も示唆する興味深い論文である。
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