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【所長寄稿】震盪症の経過と対応における思い出深い症例

【所長寄稿】震盪症の経過と対応における思い出深い症例

2020.06.16

構医ジャーナル特別寄稿

震盪症の経過と対応における思い出深い症例について

構造医学の原理において、震盪症の基本的概念は機能的障害であって器質障害に至らないものと定義しておりますが、我々が良く耳にするのが、頭部外傷後の脳震盪であると思います。これは、外傷後に一過性の脳機能障害を起こし、それが経時的に数日から数週間で改善し何らその後に後遺症を残さぬものとの認識がありますが、実際には長年にわたり機能的障害を残しつつも器質学的な検査体制によってその根拠が得られないものも存在することが昨今の研究で明確になってまいりました。
構造医学の主張する概念の一部が認知されたものと考えております。
今回の寄稿では、臨床歴40年を通して、印象に残る震盪症3例について述べたいと思います。

日本構造医学研究所 所長 吉田勧持

まず、第1例は鉄道保線区作業員の方の症例です。
この方は線路敷石砂利の補修中、人力による保線台車が背部に直撃し、胸腰椎6椎体におよぶ椎弓骨折・椎体骨折を受傷し救急病院へ運ばれ、幸いにして脊損を免れ、脊椎形成術および固定術を受け入院加療の結果、無事退院されたのですが、退院直後より血尿とクレアチニンの急上昇が見られ、再入院となり外傷性腎不全にて2週間の腎透析を受け退院。その後、アフターケアのため入退院を繰り返し2年が経過し、歩行異常・血圧不安定をもって当院に来院された事例です。

初療において、歩行異常と血液検査像からはクレアチニン高値・BUN高値を示し、時々一過性の失神を発症されるため、脳神経外科にて頭部CT等の検査を依頼しましたが、異常は認められず、当方にてリハビリを実施しました。
打検等による診察にて、腎周辺の打診後の残存違和感と定期的縮瞳が見られ、その他の血液学的所見は前述の通りであり、腎機能についての不安要素はあったが、転送医に確認したところリハビリの継続を依頼されました。3か月ほどの加療中においてもクレアチニン値の上昇傾向はそのまま続き、循環器科透析センターへ送付し対応の指針を仰いだところ、現状から透析は免れないとのことから本人の希望で腹膜透析療法に移行しました。
1年ほど経過し、一過性の失神と歩容の改善が見られず、再来院される。この時の腎臓の画像診断からは、わずかな腎組織の乱れが見られるものの、現症状との合致性がないとの所見を伺い、当方では歩容回復のためのリハビリテーションに加え、腎臓周辺の氷冷を毎日4時間施行しました。その後、徐々にクレアチニン値の低下傾向が見られ、遅れてBUN値の低下傾向もみられ、ほぼ7か月で正常値となる。しかも縮瞳がなくなり、一過性失神も消失し、その後本人は2時間半に及ぶ歩行を実施し、ほぼ2年後には透析離脱を成功させ、普通の生活が可能になりました。この例は、腎震盪症の概念に相当するものではなかろうかと現在では考えております。


第2例目は、長崎の造船所に勤務する方で、クレーンで吊るした資材が背部に直撃し、前倒しとなった際に、係留擬宝珠(係留ピン)が肝臓を直撃し救急搬送される。4週間の入院中、肝機能が不安定で、外傷性肝炎の状態が続き、一時重篤な状態へ陥ったが、その後急速に改善し退院されました。
前胸部肋間痛が継続し、当院を受診される。前医検査により肋骨骨折・肋軟骨損傷などの所見は無く、ただ不安定な肝機能異常と脂質摂取不全(嘔吐)症状が強く存在しました。
当方での診察では、右季肋部周辺の熱感が強く、縮瞳傾向があり、易疲労性が強く、尿がやや出づらく、不定期に背部への妙な放散痛と重さを感じる状態でした。このような状態が3か月ほど続き当方から肝臓専門医に紹介し、詳しく検査した結果、肝機能異常以外に器質的障害は認められないとのことでありました。
当方では、歩行指導に加え肝臓・腎臓の冷却を毎日4時間実施し、経過を見つつ、さらに1日60ccの穀物酢摂取を促し、様子を見た結果、概ね半年後には肝機能正常化と縮瞳傾向の消失が見られ、脂質摂取の可能が得られ、完解状況となった。この例は器質的状況が見られなかったことから、肝震盪症の態様であったと思われます。


第3例は、工事現場で簡易ヘルメットを装着し作業中に、約200㎏のH鋼が高さ70㎝上部より落下し頭部を直撃。その際、足場が崩れたことにより衝撃が緩和され致命的な状態は免れ、擦過傷程度の膝損症と右手手指の骨折で事なきを得たかに見えた。
しかし、労災事故として取り扱われたため、受傷から7か月を経過したところで当院にて受療。経過は、症状固定で手指の変形以外、何も無いとの所見であったが、前医に訴えた頭痛・めまい・耳鳴り・立ちくらみ・乏尿・記憶欠損など、多岐にわたる不定愁訴群については、気のせい若しくは意図的な主張との扱いを受け、精神科の受領を促されていました。
当院来院後の所見では、縮瞳に加え、めまい・耳鳴り・立ちくらみ・乏尿については、2か月程度の加療にてほぼ消退したが、定期的に出現する発作性頭痛と記憶欠損(特に対人性記憶欠損)はその後も継続し、難治でした。
脳冷却装置の治験機が完成したので早速これを用い、脳冷却2時間・45分歩行メニュー×1日3回・副腎部冷却2時間を連日施行。2か月半後に頭痛が完解し、5か月後には記憶欠損のほとんどが消失しました。
この時点では縮瞳も消失しており、まさに脳震盪症といえるものであったと考えられます。


以上の3例は震盪症が各臓器や器官に発生し、交感神経異常(機能低下)にも関わっている可能性の存在、しかも一過性とはいえ、年単位に及ぶものが存在することも示唆していることがわかります。 これらの例から、震盪症は検査制度が微細になれば、いずれ何らかの機能障害の根拠となる別の所見が見つけられる可能性が示され、一時的器質障害の発見が認められなくても、消極的対応(安静)だけが許されるものではないことも示唆していると考えられます。エネルギーの蓄積は時間をかけて機能障害から器質変化へと転換していくことと思われる。(原理編参考)


令和2年6月


日本構造医学研究所所長

吉田 勧持 (理博・医博)

専門はプラズマ・界面物理・臨床解剖学。主に物理・工学・医学を学際領域とした構造医学を創設し、40年近く臨床を続ける傍ら、数々の研究を行う。教育活動にも熱意を持って当たっており、80年代より構造医学の正規講座ではのべ2万人近くを指導する。 1148名の学会員を擁する日本構造医学会理事長。空手道8段。