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【特別インタビュー】てんかんから紐解く生理冷却
2019.11.07
てんかんから紐解く生理冷却
群馬大による最近の研究成果で、てんかん発作における冷却の有効性が示唆された。構造医学創成期より生理冷却の重要性を訴え続けている吉田所長に、こうした最近の知見を踏まえて話を伺った。
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群馬大大学院医学系研究科の柴崎教授らの研究グループによると、てんかん発作に伴う脳内温度上昇で特定たんぱく質が異常活性化して症状を悪化させる仕組みが解明された。マウス実験で、てんかん発作時に脳内の「てんかん原性域」という部分の温度が1度上昇することが判明。さらにこの発熱で、哺乳類の体温調節に関係するたんぱく質「TRPV4」が異常に活性化し、てんかんの症状を悪化させるというメカニズムが解明された。そこで、柴崎氏らは独自開発の冷却装置をマウスの脳に埋め込み、発作時に原性域を30度まで冷却すると、発作が完全に止まって脳波が通常の動きに戻った。冷却をやめると、再び発作が生じた。
(出典:毎日新聞 2019年10月30日より一部改変して引用)
構医ジャーナル記者) 上記は群馬大による研究で、てんかん発作時の脳内の発熱が、さらにてんかん発作を悪化させる悪循環のメカニズムが解明された画期的なものですが、なぜそもそもてんかん発作時に脳が発熱するのでしょうか?
リラックスした様子でインタビューに応じる吉田所長
吉田所長
(以下、所長と表記)
日本構造医学研究所の研究では、脳内の局所的発熱は血行性で0.4℃、腫瘍性のものでも0.8℃程度ですが、てんかん発作では1.0℃もの発熱が観察されます。しかし脳は脂肪細胞だから、それ自体に発熱機序はありません。物理学的には、電磁誘導による発熱と考えるほかありません。
―――とすれば、発熱は結果であり、冷却は現象面への対応ということになりませんか?発熱の二次的な悪循環は低減できても、根本原因への対応になりますか?
所長 電磁誘導は熱と切り離せません。単純に見ても誘導抵抗は冷却と密接ですから。
―――構造医学では長いこと冷却に着目されていますが、なぜ温度を下げることが大事なのでしょうか?
所長 正確には温度ではなく、熱をとることが大事です。昔から『頭寒足熱』と言われるように、頭部冷却には一言で語りつくせない様々な効果があり、構造医学でも冷却の重要性を訴えてきました。40年近く前、当研究所に通院していたアメリカ軍医達に氷罨法を紹介した際はずいぶん興味を持っていました。
―――20年前には局所的に脳を冷却するための頭頚部冷却装置の特許を取得されました。
90年代に構造医学研究財団との共同研究・開発により実現した医療用具承認器:頭頚部冷却装置(クライオサーミア)
所長 高度管理医療機器に指定された頭頚部冷却装置(クライオサーミア)は当研究所付属臨床所をはじめとして、数百台が全国の医療機関で今も活用されています。冷却に着目した研究は幾度かのムーブメントを経て近年も活発化していますが、これだけの臨床例を重ねたものはありません。
―――構造医学の局所脳冷却装置(頭頚部冷却装置)は、脳という器官全体を冷却するための色々な工夫がされていますが、先述の研究では、脳の中でもさらに「てんかん原性域」という域局所を冷却します。局所脳冷却という言葉の範囲が変わってきているのでしょうか?
所長
言葉の変遷でなく、どこを見ているかの話です。
頭頚部冷却装置を上市した頃は、心肺停止時の脳侵襲を低減するための「全身低体温法」が一方にあって、構造医学では「脳」に焦点を当てていたから、『脳か全身か』という軸で見られた。てんかんに焦点を当てれば、医療技術は様々な要素が関連するから、『てんかんは原性域』ということでしょう。
―――そのてんかんでは脳内のさらに域局所を選択的に冷却しますが、奈良先端大の池田氏によると、てんかん発作時の過剰発火に対する局所脳冷却の効果は条件などによって2種類に大別され、発火の強度・頻度ともに減少する場合と、発火の強度は減少するが頻度は変わらないか、やや増える場合があるといいます。冷却によって頻度が増加する場合があるというのはなぜだと思われますか?
構医研付属臨床所での頭頚部冷却の様子(2006年頃)
所長
当研究所の方式は、域局所ではなく、頭頚部全体を冷却し身体を加温する方法を20年以上採っていますが、脳冷却中において頻度が増加する例は、当研究所の観察では極めて稀であり、今までに200例を超える中で2例しか経験していない。しかし冷却中止後20分以上経過した位で、小発作が頻位に現れるケースは十数例経験しています。これらの方々に共通するのは、それまでに多剤によるてんかん管理をなされていることです。発病から少数薬・単薬、あるいは無薬で管理がなされた患者での頻度増加は当研究所では観察されていません。
これらを考えると、冷却後より身体全体が復温される過程で体内薬物残留濃度等の急激な変化が起こり、生体反応としての小発作が発生したと私共は見ています。
―――てんかんは脳内局所冷却が注目されていますが、構造医学で提唱してきた脳全体を冷却する方法は有効なのでしょうか?
一般向け著作においても冷却、てんかんを概説している
所長
治験機から数えて20年以上にわたり観察していますが、急激な症状の消退だけを期待するのでなく、緩徐な変化や軽減はほぼ全てで見られており、有効な手段と思っています。
付言があるとすれば、私共は日本脳低温療法学会の会員として当初より参加し、懇親の場などを通じて議論を交わしてきたのですが、Dr.Fayに始まる脳冷却において域局所に限定することは、周辺の脳組織との間において、温度落差がありすぎる場合に電気力学的にポテンシャル挙動が急速に表現される可能性は示唆されており、脳周辺との調和的冷却が必要だと考えています。
また当研究所の頭頚部冷却は、構造医学で提唱する「生理的局所冷却療法」の一部です。身体の局所を選択的に冷却する考え方は、より大きな概念なので広く捉えてほしい。冷やすという行為自体は患者さんになかなか忌避されがちですから、一般向書等でも概説しています。
―――てんかんと冷却の研究はどう進んでいくと思われますか?
日本構造医学会25周年記念大会は2020年11月1日、グランキューブ大阪にて予定されている グランキューブ大阪より写真を引用
所長
作動物質性の研究が当面続くでしょうが、物理学では物質自体の同定ではメカニズムが見えてこない方が普通です。磁石を砕くだけでは電磁気の本質は見えてこないし、リンゴが地球を引っ張ったとも言える。物質が表象する世界は大切ですが、物質自体に囚われると作動原理を見落とします。ただ、学問はますますそういう縦横自在の動きが難しくなってきている。
電磁誘導という物理現象を踏まえれば色々な解決策が見えてくるはずです。脳電図や脳磁図はその存在を明確に示唆していると思います。
生理的局所冷却は構造医学のひとつの要諦ですから、来年大阪での日本構造医学会25周年記念大会で特別講演を考えています。
―――楽しみにしています。長時間有難うございました。
日本構造医学研究所所長
吉田 勧持 (理博・医博)
専門はプラズマ・界面物理・臨床解剖学。主に物理・工学・医学を学際領域とした構造医学を創設し、40年近く臨床を続ける傍ら、数々の研究を行う。教育活動にも熱意を持って当たっており、80年代より構造医学の正規講座ではのべ2万人近くを指導する。 1148名の学会員を擁する日本構造医学会理事長。空手道8段。
2020年3月30日 追記
文部科学省が掲載している科研費の助成を受けた研究の様々な成果展開事例のひとつに脳局所冷却に関する報告がありました。
下記のボタンから見ることが出来ます。