26
日本構造医学会
東京学術会議

開催日
2021年10月31日(日)
東京 学士会館
日本構造医学会第26回東京学術会議

Science council

日本構造医学会は、日本の大学発祥の地である東京・学士会館にて、第26回日本構造医学会東京学術会議を開催しました。 新型コロナ禍での開催に小川宏学会長は「人のつながりが絶たれ、三大生理要素である移動の制限により基礎体力や自然免疫力の低下が危ぶまれる」と指摘した上で「生活環境学を大要に据えた構造医学が示してきた、現代医学と伝統医学、処置と養生学、科学と生命哲学の統合の有意性がより鮮明になってきた」と述べ、開会を宣言しました。 診療の傍ら研究を深めてきた10名の発表者による演題に、収容上限に達した学会員が真剣に耳を傾け、時に白熱した質疑が交わされました。 吉田勧持理事長によるエキシビジョンレクチャーでは「本会は資格制限がない。なぜか?医療者も患者もその家族も、医療に直接携わっていない人すらも参加してきた。なぜか?専門家集団での合意形成や、パフォーマンスではない。その真意を考えることが今後の糧となる」と問いかけ、締めくくりました。

題一覧

Subject 01
イヌ科褥瘡の症例報告 -『湿潤療法』と『リコニン併用』の比較-
大阪府 柔道整復師 坂本椋一
Subject 02
ウォーキング教室を10年間実施した中で思うところ
東京都 柔道整復師 神田大輔
Subject 03
診療所の円滑な継続運営 -経営原理とコミュニケーションの流動活用-
東京都 歯科衛生士 長谷川麻美
Subject 04
弾發指処方転子使用症例からの考察
埼玉県 柔道整復師 玉村裕美
Subject 05
構造医学を援用した矯正歯科臨床の新たな展開
東京都 歯科医師 新藤勝之
Subject 06
菅沼病院リハビリテーション科で構造医学的に診療した内科患者の症例
長野県 医師 菅沼加奈子
Subject 07
硬膜脳髄反射における検証および考察2
日本構造医学研究所付属臨床施設 柔道整復師 市原周篤
Subject 08
構造医学を学んで -リウマチ性多発性筋痛症の一症例報告-
埼玉県 柔道整復師 松尾浩嗣
Subject 09
変形性膝関節症の一症例報告
千葉県 柔道整復師 加藤弘大
Subject 10
<ポスタープレゼンテーション> 上位頚椎への牽引作用を導かずに整復と冷却を同時に施す手段の考察-連綿と継承される脊椎牽引両方に対する疑念から-
愛知県 柔道整復師 根橋豊光
坂本椋一

イヌ科褥瘡の症例報告 -『湿潤療法』と『リコニン併用』の比較-大阪府 柔道整復師 坂本椋一

坂本氏は、寝たきりで高齢の愛犬(当時17歳)の左頬骨部に生じた褥瘡に甘草全抽出(以下リコニンとする)の内用・外用を行い早々に良好な結果を得た。 経過当初の約2週は獣医師の指導下で創傷被覆材としてハイドロコロイド材を貼付し湿潤環境を維持したが変化がなく、リコニンの内外用に踏み切った。 リコニン併用開始3日で鼻側尖部の修復と発赤の現象を観察。1週間で悪臭がほぼ消失し創傷部は全体的に狭小化、滲出液が中等量に。約2週後に創傷部のさらなる狭小化と体毛の発毛。約3週後に瘡蓋が形成され発赤と腫脹の消失を確認。約6週で周囲と変わりなく体毛が生え揃った。 愛犬は平癒から半年後、褥瘡との因果関係はなく老衰で死亡。18歳だった。 創傷被覆材のみで変化がなかった理由に、免疫細胞集積ではバイオフィルムを破壊できずプロテアーゼや活性酸素種が生産され炎症が持続した可能性、寝たきりの高齢犬ゆえの免疫低下などを挙げた。リコニンの奏功要因として免疫機構のバランスを保ち、サイトカインストーム抑制や他の感染症を防ぎ、リコニン希釈水による創傷部洗浄が炎症を抑え修復転機を得たと考察した。

no.1
no.2

ウォーキング教室を10年間実施した中で思うところ東京都 柔道整復師 神田大輔

神田氏は10年以上にわたり診療の傍らウォーキング教室を開催している。 当初は構造医学を学び始める中で自身の技術の未熟さに気づき、また術者の努力だけでなく患者に気づいてもらう重要性を感じていた。患者一人ひとりに歩行指導をするも時間不足や、「出口のある整骨院」を目指していたこと、スタッフの自律性が育ちにくい等問題を抱えていた。患者・スタッフ共に気づきや変化が得られることを願いウォーキング教室を開始。 ウォーキング教室では、OAが強く跛行していた患者の歩きが改善し、言うことを聞かなかった子供がぐずらず歩き、スタッフの団結力が高まった。スタッフが普段と違うウォーキング教室の仕事を通じて自信を得て成長することがわかった。構造医学の講義で聞いた「マニュアルの功罪」も実感するものがあった。ウォーキング教室は徐々に規模を拡大(約50人に対しスタッフ19人程)し、会費制も導入した。 現在はコロナウイルス防止の観点から啓蒙の場を一時的にYouTubeに移している。神田氏は、今後も構造医学の学びを正しく世の中に伝えるべく活動したい、と結んだ。

神田大輔
長谷川麻美

診療所の円滑な継続運営 -経営原理とコミュニケーションの流動活用-東京都 歯科衛生士 長谷川麻美

歯並び専門の歯科医院に勤務する長谷川氏は、診療側の努力だけでなく患者側のモチベーションが大事で、良好な持続的関係構築は、治療の成功と診療所の安定運営の鍵となると考えている。氏の勤務する院では長く良好な患者との関係が築かれ、安定した院運営となっている。 氏の勤務先が参考とする一般経営原理を紹介し、「事業活動は論理的に正しいか」「公平性が保たれているか」「関連企業あるいは個人との関係は良好か」「広く社会と人々の幸せに貢献しているか」「予測された収益及び生産成果を収めたか」「“あと味”はどうか」というものがあり、自院にあてはめ活用しているという。 またコミュニケーションに力を入れており、取り組みを解説した。さらに技術革新を積極導入し、2016年4月に採用したWeb予約と、電話予約の比率は8:2。2018年4月に導入したクレジット決済と、銀行振込の比率は8:2である。変化する社会経済のなか一般経営原理は有用だと結んだ。

no.3
no.4

弾發指処方転子使用症例からの考察埼玉県 柔道整復師 玉村裕美

ノーマンズランド領域の問題が絡む弾撥指は、長期予後不良の経過をとるものも多く、明確なエビデンスに基づく保存療法も確立していない。一方で弾撥指処方転子使用症例では、保存療法で改善が見られず観血的対応を推奨された例、再発例も含め全症例において3~12週間で弾撥現象が消失し安定している。 転子は繊維方向特性を活用し、切乱繊維の整理処理を体表より非観血処置するもので、転子部には螺旋の溝があり、粘土上で転子を繰り返し往復させたところ、腱鞘表面拡大写真の繊維方向と類似した軌跡となり、これについて玉村氏は、コラーゲン線維はかかる力の方向に繊維が配列する特性があり、転子の往復反復は繊維走行と同方向の力を与えると考察。 また処置の仕方について転子中央部の凸形状から中心接点に陽圧が作用し、強い力による処置は弾性変形による逃げを生むため、患部に的確に作用するには患者の手指をしっかり開帳し腱及び腱鞘に長軸方向への伸長力と直行方向への中心収束圧が加わって繊維間潤滑作用や繊維方向性が高まり、さらに腱・腱鞘の奥の硬組織に支持されて逃げが減り、患部に力を集中し易いという。 その他転子操作のコツや鶏生肉での訓練、毛羽立たせた羊毛繊維に転子をかけた結果等を交え有用性を報告した。

玉村裕美
新藤勝之

構造医学を援用した矯正歯科臨床の新たな展開東京都 歯科医師 新藤勝之

構造医学の、ヒト機構の成り立ちに基づく「生物学原理」は診療科の枠を超えた高い汎用性があり、新藤氏の専門である矯正歯科臨床における約70の「生物学原理」の意義は、構造医学の援用によって明瞭に整序されるという。氏は以下2症例を以て解説。 舌と口腔周囲筋のバランス・中顔面の骨格的な改善を治療目標とした上顎前突開口症例(女性、7歳4か月)。Cervical traction及びLip bumperを採用。構造医学の主な援用は、個体理論、生体の持つ内包力を引伸義した「生体の歩み寄りの原理」で、顔の成長が、個体としてのまとまりを得たかのように、下顎の成長方向が変換し、相伴う形で口腔諸筋群が歯列の保存に寄与する様子が表情筋から観察された。 下顎智歯が比較的深部に水平埋伏し、口腔周囲筋の締めつけが強く、歯列は強度の叢生を呈する症例(女性、26歳0ヶ月)。下顎智歯の歯冠摘出術を施行。下唇の圧力を奥歯の移動に利用するLooped ユーティリティアーチを採用。構造医学の主な援用は、最大非侵襲・生体潤滑論をベースとする歯周組織の血液・組織液の循環保全であった。 新藤氏は臨床全体、あるいは患者の全体像を俯瞰する上で構造医学の援用が真価を発揮していると報告した。

no.5
no.6

菅沼病院リハビリテーション科で構造医学的に診療した内科患者の症例長野県 医師 菅沼加奈子

菅沼氏は、内科・小児科・リハビリテーション科を標榜する病院で医師を務め、理学療法士と共に保険診療で構造医学的診療を行っている。調査期間中に扱った症例の中には、整形外科やリハビリテーション科的ではない、いわゆる不定愁訴とされ治療法のないものがあった。本学会では、内科や小児科で異常なしとされたケースや、治療が奏効しなかった10症例を主に取り上げた。同氏は、構造医学の診療は全身機能を整えるため、内科的疾患も含めた様々な主訴に対して、基本的に同じ処方で治療が奏効すると考えており、今回も1症例を除いて軽快した事を報告した。すべての患者への基本的な処方は、ウォーターベッドでのSLR、ミルキングアクション、ハイクオリティハーネス、リダクター、体操指導、局所冷却指導、生活指導、歩行指導であるという。最後に、薬の内服前にできることがあると強調し、鑑別疾患を頭に入れて日々の診療にあたることが大切だと結んだ。

菅沼加奈子
市原周篤

硬膜脳髄反射における検証および考察2日本構造医学研究所付属臨床施設 柔道整復師 市原周篤

市原氏は第24回学会にて硬膜脳髄反射による脳偏移、頚部スクリーニングテストにおける頸椎及び顎口腔系の整合性について報告しており、今回はその再考と追報であった。構造医学/上位頸椎の投射領域図(1988年出版)によると、頭蓋・顔面における知覚・疼痛領域には上位頸椎の各形状が相似形となって投射されている。また第2頸椎の投射領域とされる間脳は本能行動や自律神経系の中枢部分であり、視床下部の機能失調は様々な臨床症状をもたらす。外傷や日常生活による上位頸椎の潤滑不全・変位がこれらの場所に影響し、硬膜脳髄反射も関与すると推察。本学会では前回に続き、硬膜が解剖学的に脳偏移を起こしうる組織であり、頭蓋打音と頸椎状況等が不定愁訴含む諸種の臨床症状と相関性を持つとの見方について、患者のレントゲン画像を交えて考察を深めた。

no.8
no.8

構造医学を学んで -リウマチ性多発性筋痛症の一症例報告-埼玉県 柔道整復師 松尾浩嗣

リウマチ情報センターHPによると、リウマチ性多発筋痛症とは、比較的高齢者にみられる発熱、肩甲帯部、腰臀部などの筋肉痛とこわばり、血液の炎症反応等を含む原因不明の病気である。ステロイド治療が主であるが、日本人には再発が多いとされる。 松尾氏の母親(以下患者)がこの病気と診断され、同氏がその治療にあたった記録を本学会で報告した。 痛がる患者に脊柱非観血外科処置台でのリダクター処置だけは施せたものの、改善に至らない焦りから自身の姿勢を見つめ直した。自分の経験や知識に処置を当てはめるのではなく、体の中で起きている問題に着目。ストレス対処にベリポック砧の活用、構医本草や亜鉛の摂取による内部アプローチ、負担の軽い日常生活動作の励行を通して、現在患者は、趣味の太極拳やガーデニングができる程にまで回復している。

松尾浩嗣
加藤弘大

変形性膝関節症の一症例報告千葉県 柔道整復師 加藤弘大

加藤氏は地元で整骨院を営業する中で、緊急事態宣言以降に運動不足とみられる高齢患者を診る機会が増えた。「患者さんの無意識(癖)を意識下に昇らないよう、どう改善に向かわせられるか」との課題については未だに模索中であるが、変形性膝関節症を患う或る高齢患者への対応を通して、成果が得られたと思う3つの手法と気付きを、一症例を挙げて報告した。 具体的には、才差式鏡面転子、ベリポック砧、各種リダクター、非観血外科処置台、ミルキングアクション装置、キネティックフロー、ウォーターバッグⅡ型、など一連の構医処置療具による処置や、散歩中のWB体操・十分な水圧を加えたミルキングアクション・鍼術を施した結果、自立歩行ができる様になり、行動範囲の広がりも見られた。また患者からは、特別な処置を受けた自覚がなかったとの感想を受けたことで、同氏は患者の許容範囲を超える過剰な処置について見直す機会を得、穏やかに行える処置が自然治癒力を妨げず平癒を促すケースもあると感じた。

no.9
no.10

<ポスタープレゼンテーション> 上位頚椎への牽引作用を導かずに整復と冷却を同時に施す手段の考察-連綿と継承される脊椎牽引両方に対する疑念から-愛知県 柔道整復師 根橋豊光

根橋氏は頚椎処置に対して、既存の健康器具に見受けられる牽引作用や点接触加圧の概念に危惧を示し、関節潤滑概念に基づいた面接触加圧式整復器を目指して開発を手掛けた。同氏によれば「患者自ら容易に実践可能な仰臥位姿勢保持により、整復と冷却を同時に施せる」という。同氏は、頚椎の関節潤滑不全を抑制・修復するはたらき等、本整復器への内在を想定する主要5要素について述べた。また独自の検証を踏まえ、災禍時における非接触型での施術に加え、リモートで患者のセルフチェックによる頚椎状態の認知手段として他者非介入型頚椎検査法を提示した。なお座長カンファレンスで本開発品が使用条件によっては牽引性を有する懸念も議論される中、理事長は医療(用品)の避けがたい両面性、モノづくりの困難さを場内に説き、基礎研究の重要性を強調する形で、同氏のチャレンジへのエールを送った。

根橋豊光

会風景

to everyone

昨年に引き続きコロナ禍の難局を乗り越え、盛会裏に本学会を開催できましたのは、消毒・換気・検温・体調管理等に協力を頂きご参加下さった皆様はもちろんのこと、厳しい人数制限も見込まれる中幾度も会場との調整に足を運んで下さり大会長を務めて下さった小川宏先生、実行委員の皆様、座長委員の皆様によるご尽力あってのことでございます。

安全安心な大会遂行に尽力賜った役員の皆様の功を労い、末筆ながら、ここに役員の皆様のお名前を順不同にて記します。

日本構造医学会事務局より篤く感謝申し上げます。

先に配布しました第26回東京学術会議抄録集巻末の実行委員一覧に、今大会で実行委員として尽力賜った 細谷友洋 先生の御氏名の記載漏れがございました。訂正し深くお詫び申し上げます。

小川宏先生

学会長兼 実行委員長
小川宏先生
おがわ整骨院院長

学会風景 学会風景

-学会長兼 実行委員長-

小川宏

-副学会長-

平木誠一

-実行委員-

菊池龍也  坂元志郎  佐藤朝美
篠塚大輝  高橋誠  廣野拓也  細谷友洋

-座長委員-

落合弘志  笠井浩一  落合弘志  川内野良蔵
柴田宗孝  田所生利  林田一志  松村圭一郎  梅田久生

学会メンバー写真