特別講演・特別講座の要約は「第29回 日本構造医学会 学会誌」に掲載しております。 また本年の学会誌より、サマリー[抄録]を論文集に併載して発刊しております。
学会長挨拶
- Greetings -
構造医学の求めるものには、
ただ治療法としての学問ではなく
事象を自然にとらえること、
そして
自然にあり続けるための方策を
追い求めるものが
一つあると考えています。
学会長挨拶 落合弘志
大阪学術会議
- Academic council -
「日本では言葉に魂が宿ると言われています。今日は発言者の言葉を感じて下さい。ここに集う意義がある。」林副学会長の参加者へのメッセージとともに、2024年11月3日 文化の日、日本構造医学会は大阪大学中之島センターにおいて、第29回大阪学術会議を開催致しました。
コロナ下、最も厳しい行動規制ムードで緊迫していた2020年の「第25回記念大会 大阪学術会議」以来、久々に解放的な雰囲気の中で執り行えたのではないかという印象です。
コロナ収束後はコロナ以前の日常・様式を取り戻すことはなかろうと囁かれ始めてから早5年が経過しました。2020年は構造医学創立40周年記念の年とも重なり、本当に記念式典の実施がかなうのかと懸念したことも記憶に新しいです(実際の記念式典ではマスクの上にも漏れ出すほどの笑顔を皆様一人ひとりが持ち寄って下さりました!)。当時、一寸先は闇で、情報錯綜の中、何を信じ、どの方角に進めば良いのかと途方に暮れる時期でもありましたが、コロナ禍は必ずしも負の側面ばかりもたらした訳ではないと感じております。良くも悪くも実態があぶり出され、ふるいに掛けられる好機になり得たのではないでしょうか。多くのシステムが従前の手法では立ち行かなくなり、我々も長らくシンジツやホンモノとされてきたモノ・コトに対し、評定の目を養う機会を与えられたはずです。
そのような観点からも、落合学会長挨拶における“かみ合わない議論”への指摘は鋭いものであり、医療行為と認識されている行為の原点を見つめ直す必要性に気付かされます。また関谷氏の特別講演において、デイサービス開業時の初心であった「日常生活における自立は依存ではなく、自分で動いて自力をつけてもらえるようにする」という志がいつしか置き去りになっていた、という謙虚な反省は、私たちにも思い当たることがないかと考えさせられます。そして川内野氏による特別講座では、構造医学を通して解析する世界観の面白さや驚嘆を共に分かち合えたのではないでしょうか。更に今年の座長カンファレンスでは初めて、一般演題だけでなく、特別講演・特別講座のテーマも議題に取り上げ、深く掘り下げた議論がなされました。
話を戻しまして、コロナ禍で身動きがとりにくかった期間にも、おかげさまで当方の活動ならびに日本構造医学会会員の皆様の研鑽はたゆまなかったどころか、それまでの蓄積がやっと日の目を見る機会に恵まれた場面や、体力を備蓄して一層輝きが増した様子を目の当たりにすることができ、たいへん感慨深いものがあります。むしろコロナ以前の日常より力をつけている皆様のお姿は、日本構造医学会の財産を形取り、強みとなりますことに心よりお礼申し上げます。
また日本構造医学会の活動もおかげさまで来年30周年を迎えるにあたり、今年の学術会議ではベテラン学会員の円熟した視点による言葉が一層心の奥に響いてきました。誰しもが直面するテーマである「老い」について、診療者と患者双方の加齢に伴い対処法も推移していく実情や心境を各世代が共有し、老いに向き合う診療の組立てが本格化していく気配を感じました。
更に今年の発表でも「歩行」の重要視と熱い取り組みが見られ、構造医学の着実な歩みを確信した次第です。比較的若くて元気なうちは歩行が出来て当たり前のこととして捉えられがちで、その意義や価値は軽んじられる傾向にあると思います。よって歩行の推奨は瞬発力のない魅力に受け取られる上、利用者からは受け身のサービスが好まれ、自発的トレーニングは酷に映ります。そして提供者側もそのニーズに迎合しつつ絶妙な需給をしばらく保ったのち、自身の体力の減衰を自覚して診療スタイルを見直す必要性に迫られる、という一連の道筋に、終盤で気づく人もいれば、解っていても抜け出せない方など様々かと存じます。我々は自力で歩けなくなって初めてその価値を噛みしめるものです。その点、体力が有り余るうちから老後を思い描き、一定水準の歩行を生涯保とうと志すことは、まるで華が無いようですが、自分の残した足跡が年をとってから笑うための種子になっていたと気付く日が来るかもしれません。診療者と患者が互いになるべく早い段階でその価値を共有し、意義深い臨床に繋げられたらと切に願います。今年の学会ではこのような境地にいざなわれ、大変学びの多い会となりました。年々本学会が醸成しつつありますのも、ひとえに30年近い皆様のお力添えの賜物でございますことに、重ねてお礼申し上げます。
今後も教科書通りに対応できない臨床ケースに直面し、既成事実の再検証や固定概念の書き換えを迫られる場面は少なくないと思われます。些細な気づきを研究対象として自身の施設をラボ化し、常識にとらわれぬ考察や臨床報告が寄せられる日本構造医学会の学術会議は、氾濫する情報の取捨選択が難しい現代において、実態に沿う貴重な情報の宝庫となり得ると信じております
議題一覧
- Agenda list -
演題1
- 末梢神経絞扼障害についての考察
- 大阪府 柔道整復師 錦𦀗 崇史
- 錦𦀗氏は日々の臨床で、しびれと痛みに関する愁訴に苦悩しており、臨床家としての理想を掲げるも、理論だけでは対処困難なケースに対し、同氏なりの着眼をもとにアプローチを試み、その過程において考察を深めている。
演題2
- 歩行に支障のある患者への運動療法について
- 大阪府 柔道整復師 中川 亜耶
- 中川氏は患者の日常生活の安定化に向け、立ち歩きの重要性に注目している。座位・立位・歩容を一環とした動きと捉え、順を追って修正をはかる運動指導により、安定した歩行を目指している。
演題3
- 安定した歩行に向けて
- 大阪府 柔道整復師 三雲 大輔
- 三雲氏は歩行の安定化に向けた指導を行う中で、その安定は人により異なると考えた。各人に合うリズムや歩調について素粒子レベルにまで掘り下げて考察することで、歩行への理解を深め、指導に活かそうと志す。
演題4
- 通所介護の現場から見た要介護高齢者の
尊厳保持と自立の現状 - 千葉県 介護職員 四戸 豊子
- (共同研究者:中安 真里子、鈴木 奈美、古谷 明子)
- 通所介護に勤務する四戸氏は、コロナ禍以降に特徴的な問題点や介護業界の課題を提起し、いずれ誰もが当事者になるうる超高齢化社会での尊厳を保つ生き抜き方について議論を投げかけている。
演題5
- 硬膜脳髄反射における検証と考察5
- 千葉県 柔道整復師・鍼灸師 市原 周篤
- 市原氏は硬膜脳髄反射について縦断的研究に取り組んでおり、今回は過去4回にわたる検証と考察を整理し、新たな考察を加えつつ研究への理解を深め、更には今後の研究対象の進展をはかっている。
演題6
- 座位姿勢と呼吸運動の関わり及び是正方法
- ~背もたれ編~
- 愛知県 柔道整復師・鍼灸師 林 利浩
- 林氏は前年の発表の後半部として、背もたれ利用時の理想的な座位姿勢について追究し、座位姿勢に起因する諸問題への対処として、背もたれ補助具の導入で改善を試みた過程を報告している。
演題7
- 頭軸圧機能付傾斜ベッドを用いた臨床報告2
歩行痛を伴う先天性股関節臼蓋形成不全症への非観血的対応 - 千葉県 柔道整復師・鍼灸師 加藤 弘大
- 加藤氏は先天性股関節臼蓋形成不全症の患者に対し、非観血的施術を行うことで歩行痛を取り除き、日常生活での行動にも支障のない水準にまで回復した症例を報告している。
特別講演・特別講座
- Lecture -
特別講演
-
通所介護事業の現場から見た
介護保険制度のひっ迫した問題とその対策 - 千葉県 百年健康倶楽部代表 関谷康夫
介護保険制度が発足した2000年当時、整骨院を経営していた関谷氏は、自立支援のためのサービスが「依存的」自立を誘発せぬよう、歩きで自力を養う目的の施設を整骨院に併設した。その施設は当初、来院患者の運動用として利用されていたが、諸財政事情により2003年に通所介護施設に事業転換し、「自力の強化」支援を目指して運営開始した。
時を経て事業の成長を確認する傍ら、2つの懸案事項が浮上。病気や怪我がもとで通所介護を休むうちに介護度が上がり、結果として特養等に入所する利用者が増えたこと、そして規模拡大の要件を満たす人員の確保が難しく、事業継続が危ぶまれたこと。来る2025年問題は介護保険制度の限界にとどまらず、人材と財源の不足問題に集約されると考える。そして現場はすでにひっ迫した状況であると危惧している。
2025年問題の解決に向け国が推進する「地域包括ケアシステム」も多くの課題を抱えている中、同氏は「健康を共通項に階層を越え人が集う場」の拡充展開を検討している。最後に、構造医学を学ぶ皆様の素養に展望を抱き、各々の取り組みと活躍に期待を込めて締めくくっている。
特別講演
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衝撃的で好奇心が無くならない学問
~深く広く考え、丁寧に対処~ - 長崎県 構医研究機構 専任講師 川内野良蔵
構造医学ではヒトにおけるウェイトベアリング(WB)は「全身を司る精密な重力定量器」と説き、ホルモンの定量も行っていると演繹している。即ちWBの定量の問題は成長過程に深く根差す問題であり、骨格的な形成不全が脳機能の発達に波及しうるということである。
今回の特別講座では、WBの問題とそれを丁寧に処理することの重要性を根幹のテーマとしており、我々が問題としている事象に対し、その背景に潜む思いもよらぬ因果関係を手繰り寄せ、構造医学的に紐解く川内野氏の姿勢がまばゆい講座であった。
※講座となるため、詳細に関する記載は控えております。
閉会宣言
- Closing Declaration -
さて、2025年問題をあと1年としました。
私たちは新たな時代を造る潮流の渦中にあります。
時代に流されるのか 流れを作るのか。
お金や権力で問題を解決するのではなく
私たちは歩行と養生を説いて
真摯に民衆と向き合って行きましょう。
副学会長 林貴之
思い出のフォトボード
- Memories photo -
by 撮影ボランティア:中村水咲氏
学会長・委員の皆様へ
- To everyone -
今年は開催日直前に台風による天候の乱れが懸念されていましたが、当日はそれをも吹き飛ばしたような心地よい晴天に恵まれ、おかげさまでつつがなく学術会議を開催することが出来ました。今年も盛会裏に終えることが出来ましたのは、ご参加くださった皆様をはじめ、学会長を務めて下さった落合弘志氏、副学会長兼司会進行として会場をリードして下さった林貴之氏、実行委員の皆様、座長委員の皆様によるご尽力あってのことでございます。
改めて日本構造医学会事務局より厚く御礼申し上げます。
尚、大会遂行に尽力下さった役員の皆様の功を労い、末筆ながらここに皆様のお名前を順不同にて記します。
- 学会長 兼 実行委員長
- 落合弘志
- 副学会長
- 林貴之
- 実行委員
- 岡村優輝
- 坂本椋一
- 谷谷章子
- 仲西賢晃
- 森和美
- 義智大
- 撮影ボランティア
- 中村水咲