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すい臓がんにおける特有遺伝子の機構とHDAC阻害剤について

すい臓がんにおける特有遺伝子の機構とHDAC阻害剤について

この記事は、外部ジャーナル等に掲載された最新の生命科学的成果の中から、興味深い知見を構医研にてピックアップし、独自に抜粋引用・要約したものです。わかりやすく・かつ的確に紹介できるよう注意を払っておりますが、正確な内容については必ず各出典元を参照して下さい。

1.すい臓がんにおける特有遺伝子とがん抑制遺伝子の関係

東京医科歯科大学大学院の田中真二教授と島田周助教らにより、すい臓がんに特有の遺伝子の発現が変化することで悪性化する分子メカニズムが明らかにされた(インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー電子版2018.12.17)。
この研究によると、難治性のすい臓がんではKDM6Aという遺伝子が不活性化している。このKDM6A遺伝子は、別の遺伝子であるがん抑制遺伝子が発現する上で重要なはたらきをしており、これが不活性化しているためがんの抑制がうまくできず、膵がん細胞では悪性度や増殖能が高まる。そのメカニズムは、KDM6Aはある酵素と複合体を形成し、別の酵素HDACを阻害する。このHDACはヒストンというたんぱく質のアセチル化を阻害する機能があり、そのヒストンと結合している遺伝子の発現を邪魔する。KDM6A遺伝子がきちんと働いている細胞では、このHDACを阻害することでヒストンがアセチル化され、遺伝子が発現する。この遺伝子ががん抑制遺伝子である。治癒の難しい膵がん細胞では、KDM6Aが発現しないため、HDACを阻害する仕組みが機能していないことがわかった。
また、KDM6Aの不活性化した細胞株においてHDAC阻害剤の薬剤感作性が有意に向上しており、KDM6A不活化膵癌サブタイプにおける特異的治療としてHDAC阻害薬を用いた治療の有効性が示唆された。

2.Bヒドロキシ酪酸の機能

このHDACの阻害剤にはボリノスタットやパノビノスタット、酪酸ナトリウムなどが知られる。
近年の研究では、マウスの腎臓において、この酪酸とよく似た化学構造であるβヒドロキシ酪酸もまた、HDACを阻害することがわかっている(島津忠広・Eric Verdinほか:サイエンス,339,211-214(2013))。βヒドロキシ酪酸は、哺乳類の飢餓状態において重要なエネルギー源となる。哺乳類の飢餓状態において肝臓が脂肪酸の酸化を行うようになると血中のβヒドロキシ酪酸の濃度は1~2 mMになり,さらに長期的な飢餓状態では6~8 mM,糖尿病性のケトアシドーシスの患者では25 mM以上に達する。この研究では,このような性質をもつ,すなわち,酪酸に似た代謝産物であり体内に高濃度に存在するβヒドロキシ酪酸もまた,ヒストン脱アセチル化酵素を阻害することがわかった。
(引用元クレジット:© 2012 島津忠広・Eric Verdin Licensed under CC 表示 2.1 日本)
※ mM(ミリモーラー)は濃度を表す単位であり、モル濃度(mol/L)の1000分の1(0.001mol/L)を指します。

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